ECLS(PCPS,ECMO)中の鎮痛、鎮静、神経筋遮断薬、体温調整 後編

ECLS(PCPS,ECMO)中の鎮痛、鎮静、神経筋遮断薬、体温調整 後編


つづきです。


神経筋遮断薬

 ICUにおいて神経筋遮断薬を使用する大きな理由は、呼吸不全のために人工呼吸器が同調しないということである。しかしながら神経筋遮断薬の使用に関連した合併症のため、最近20年間でその使用は減少している。神経筋遮断薬を使用する場合には、必然的に適切な鎮静も必要となる。ECLSの状況ではカニューレ挿入時に神経筋遮断薬がよく使用されるが、一旦ECLSが開始されれば通常はその後不要である。

 ICUで必要な場合には、非脱分極性の筋遮断薬が使用される。これらの薬は作用を活性化するのではなく、競合してアセチルコリン受容体を阻害する。サクシニルコリンが唯一の脱分極性の筋遮断薬である。気管挿管を容易にするために使用されるが、ICUにおいて持続点滴として使用されることはない。

1. 薬剤

a. パンクロニウム

パンクロニウムは一回量で60-90分程度作用が持続し、半減期も長い。脈拍

を増やして、代謝を活性化させ、腎排泄される。これらの特徴からICUでの使用は限られている。

b. ベクロニウム

ベクロニウムはパンクロニウムよりも半減期が短く、一回量で約30分間作

用が持続する。ベクロニウムの半分は肝臓、1/3が腎臓で代謝排泄される。またその代謝産物は活性を有しているため、作用が遷延することがある。

c. ロクロニウム

 ロクロニウムは効果開始が早い。サクシニルコリンが禁忌(熱傷、腎不全、上位運動ニューロン障害)である場合の気管挿管時に有用である。その代謝産物はわずかに神経筋遮断作用を持つ。

d. シサトラクリウム

 シサトラクリウムはアトラクリウムの異性体である。作用開始が早く、持続時間は25-30分程である。この薬剤はエステル加水分解とホフマン脱離により血漿中で不活化される。半減期が短いため、持続点滴で管理されなければならない。この薬剤はICUでの神経筋遮断薬として最もよく使用される。

2. 神経筋遮断薬のモニター

 神経筋遮断薬の深さは、末梢神経刺激によりモニターする。刺激装置は4回の連続した刺激を加え、2-3回筋肉がピクピクと動けば、適切な深さで神経筋遮断薬が使用されていると言える25

3. 神経筋遮断薬による合併症

神経筋遮断薬使用後の筋力低下の遷延は最も考えるべき合併症である。回復の遷延とは、神経筋遮断薬を使用していた時間より50-100%延長するものと定義されている。稀ではあるが急性不全麻痺や筋壊死などの症候も引き起こす可能性もある。神経筋遮断薬による合併症が増えると、ICUでのその使用が極端に減ることが憂慮される。これらの合併症は副腎皮質ステロイドの使用に伴う場面でより頻繁に認められる28

せん妄

 せん妄はICU患者の死亡率の独立した危険因子である29。過活動で不穏なタイプのせん妄は容易に気が付きやすいが、しかしながらより多いのは低活動で静かなタイプのせん妄である。せん妄の特徴は、認知症のような慢性疾患とは異なって発症が急性で、数日から数週の経過で起こる25。せん妄は4つの臨床像を持ち、急性発症、変動のある経過、注意力の欠如、無秩序な思考で定義される31,32

 せん妄は神経伝達の不安定さから、認知機能、行動や気分が変化するものと考えられている22。要因として、脳代謝の抑制、感染、低酸素、離脱、ベンゾジアゼピンや麻薬などの可能性がある。

 ICU患者の全てがせん妄のリスクであるように、ECLS患者も同様のリスクとなる。ICU のためのせん妄評価法(CAM-ICU)のような、せん妄を評価するツールは使用するべきである。また日々ECLS患者は、鎮静をフリーにしたり自発呼吸トライアルなども行われるべきである。ECLS回路と技術は、鎮静を無しにして患者を動かすことが当然であるICUケアにおいて、気になってしまうものである。

体温管理

低体温療法の臨床基準と導入

 低体温療法は1950年代に心臓外科手術の際に、虚血性脳損傷を防ぐために初めて導入された33,34。そのときから軽度低体温療法は、外傷性脳損傷、脳卒中、心臓外科手術後の無酸素性脳損傷など、多くの神経学的異常の場合に使用されてきた35,362つの大きなRCT(ヨーロッパとオーストラリアで行われた)が致死的不整脈による意識のない院外心停止患者への低体温療法の有効性を示し、これをうけて2003年の国際蘇生連絡協議会(ILCOR)は低体温療法に関する勧告を発表した。勧告は他の患者への適応拡大が考慮される37,38とともに、2005年にはアメリカ心臓協会(AHA)やヨーロッパ心臓協会(ERC)のACLSガイドラインにも低体温療法は取り入れられた。新生児の臨床試験でも、周産期の低酸素性虚血性神経障害に対して低体温療法が予後を改善させることもまた示された。低体温は全身を冷却するか、頭部冷却法のどちらかで行い、今や新生児の日常診療でも推奨された治療である39,40。これらの結果に対応して小児のコミュニティーは現在、北アメリカでアメリカ国立衛生研究所(NIH)基金での多施設共同研究 (Therapeutic Hypothermia After Pediatric Cardiac Arrest: THAPCA) を実施中である41。その結果は新生児や成人と同様の結果になるのではないかと期待されている。

 低体温がどのように神経保護につながるのか、正確な機序はまだ完全にわかっていないが低体温そのものと、関連した他の神経保護に影響する生理学的メカニズムの両方が低体温の様々な特性として作用しているようである。わかっていることは、数分から数時間で起こる破壊的な過程のカスケードが、再還流障害と同様に蘇生後脳症という脳の二次損傷につながることである33。また発熱が神経損傷のある患者の予後を悪化させる独立した因子であることも広く知られている。それ故にこの事実は、体温調節や操作が神経集中治療において重要な側面を持つという理解につながり、低体温の利用が代謝率や脳の酸素需要の軽減につながって脳圧や脳浮腫を減らすことが出来るのである42,43ECLS患者の多くはECLS開始前に神経損傷の可能性がある、もしくは神経損傷をすでに経験しているため、ECLS患者に対するこの治療法の妥当性はかなり高い。それ故にこの治療様式は理解しておかなければならないし、利益があると思われる患者にはこの治療法を実行する可能性がある。

定義

 治療的な体温調節の手技に関して色々な定義や用語を理解しておくのは重要である33。表12-1にはこの章の目的の一つで知っておくべき重要な、正常体温へコントロール(Controlled Normothermia)、低体温の導入(Induced Hypothermia)、治療的低体温(Therapeutic Hypothermia)、の全ての定義を記している。

 1. 正常体温へコントロール(Controlled Normothermia)することは神経集中治療において実際よくあることで、ECLS患者の標準的なケアや管理の一部である。シバリングのような体温調節の副作用をコントロールしながら、体温を正常範囲(36.0-37.5)内で上げたり下げたりする。

 2. 低体温の導入(Induced Hypothermia)は意図的に深部体温を36.0以下にすることである。

3. 治療的低体温(Therapeutic Hypothermia)は、シバリング、電解質異常、循環不安定のなどの有害な作用を調整しながら、導入された低体温の維持を目的としている。

 さらに上述の定義をより理解するために、偶発性低体温についても知っておかなければならず、その管理法のように両者の生理学的反応も全く異なることから、治療的低体温と同じ管理やケアではないことを理解しておかなければならない。

低体温の導入

 低体温の導入は、熱喪失を減らし低体温を防止するという体の逆調節反応を生じうる。深部温が36.5以下に下がるにつれて、皮膚の脈管構造の血管収縮が生じる。さらに一旦体温が1低下すると、35.5付近で血管収縮が起きてシバリングが始まる。シバリングは呼吸仕事量、脈拍、ストレス様反応を増加させるに伴い、結果として代謝率や酸素消費量を増やす44-47。覚醒している患者はこれらの反応により酸素消費量を40-100%増やすため、当然神経学的障害のある患者では望ましくない。意図的に低体温を導入した患者では、これらの逆調節性の生理学的反応はコントロールされなければならない。効果的な管理はこれらの患者に対して、シバリングや関連した血行動態反応(表12-2のシバリングの管理でよく使用する薬剤リストを参照)と拮抗する積極的な鎮静をおこなうことである33,34。逆調節性の反応がコントロールされれば、実際の低体温の導入時にゆっくりした脈拍となる。低体温の導入には色々な装置や方法があり、この章の目的ではないが、熱交換機や整備士、その他細かいことに関しては第8章で詳しく述べられているが、それらの調整によってECLS中の体温は決定される。体温の操作はECLS中の重要なバイタルサインの一つであり、時間単位の記録や時折頻回の操作が必要になると注意しておくことが重要である。

ECLS回路の表面面積は患者からの大きな熱喪失となるため、全てのECLS患者は正常体温を維持するために回路の持続加温が必要となる。

低体温に対する生理学的反応とその管理

1. 血行動態への影響

 心血管系の影響でよく起こるものは、末梢の血管収縮による軽度の血圧とCVPの上昇、代謝率の低下による混合静脈血酸素飽和度のわずかな増加、それに関連して代謝率の低下による心拍出量の低下〜不変による脈拍の減少(徐脈)、などがある。低血圧もまた頻度は少ないが起こりうる。しかしながら低体温の導入時の寒冷利尿と血圧低下が関係していることは知っておかなければならないし、ICP管理している外傷性脳損傷の患者はさらに浸透圧利尿も加わるためより顕著なものとなる。徐脈はすでに先述したが、さらに低体温中にはPR間隔やQT間隔の両方とも延長することがよく起こり、一旦30を切って28-30になると、Vfに移行しやすいだけでなく心房性の不整脈など、他の不整脈も起こり得る48-50

2. 電解質異常

 電解質異常は治療的低体温の導入の時によく起こる。重要なことは、電解質の喪失が著しいことがあるので、K, Mg, P, Caを正常上限レベルで保っておくことである。そしてまた復温するときに、電解質は正常レベルを超えやすいので、それらの値を密に計測することが大事であるが、とくにKでよく見られる50-51

3. 凝固異常

 低体温中は血小板数の減少に合わせて、血小板の機能が低下することがよく知られている。このことは低体温療法を受けている患者の出血のリスクとなり得る。くわえて凝固カスケードの前駆体の活性化因子への変換が遅くなり、さらには通常の止血にも影響を及ぼす可能性がある。低体温療法中の出血はそれほど多くはないが、リスクとなり得ることは知っておかなければならない。低体温療法を受けているECLS患者は、そのリスクはさらに高くなり、より配慮すべきであり、有害事象を防ぐための綿密なモニタリングが必要である。通常の止血機能の異常により、静脈と動脈系の両方ともカテーテル関連の血栓形成が増える可能性がある52-53。日頃からライン刺入部やその周囲の組織の監視は早期の血栓形成を発見するためにおこなわれるべきである。そのほとんどがラインを抜去することで血栓が自然溶解する。低体温療法を受けているECLS患者は、血栓が出来ないよう抗凝固薬を全身性に使用されているためそのリスクは低く、ライン抜去はECLSから離脱するまで行わない。

4. 炎症反応の抑制

 低体温療法中はカテーテル関連血流感染(CRBSI)など、感染が中等度の頻度で起こる。特に気道や創部など、正常な炎症反応が冷却することで抑制される。ECLSはそれ自体が感染のリスクとなる上に、さらに低体温療法の2つの治療がなされて感染のリスクが増加するため、感染を早期に発見して賢明な抗生物質の使用が推奨される33

5. インスリン抵抗性

 高血糖はよく低体温療法の導入や維持のときに認められる。インスリン抵抗性が増大するのは3歳以上の患者で認められるため、輸液に糖を含む必要はないかもしれない。高血糖を是正するため高用量のインスリンが必要になるが、再度復温するときには低血糖を防ぐため、とても慎重に観察しなければならない56-61

6. 検査値異常

 低体温中に検査値異常はよく認められるが、そのほとんどが介入する必要はない。さらにいくつかの検査値は体温そのものに影響される(例えばpH、血液ガス値、凝固のパラメーターなど)ため、体温で補正した正確な値を得る必要がある。検査値でよく異常値となるものとして、乳酸アミラーゼ肝酵素は全て上昇、白血球数や血小板数はやや低下、ヘマトクリット値はやや上昇、pHは通常やや低下となる33,62-64ECLS患者ではこれらの異常はよく認められ、密にモニターすることが通常求められる。

7. 薬物クリアランスの低下

 低体温療法中の薬物クリアランスと代謝は通常低下し、このことは頻繁に起こる。これは肝酵素の働きが緩徐になるためだと最も考えられている。しばしば同じ効果を得るためには点滴速度やボーラス投与量の増量が必要となる。ECLSと組み合わせると、ECLS自体が分布容量の増加により薬の作用が減弱することがよく知られているため、結果として鎮静/鎮痛の管理と合わせて大きな挑戦となる。

8. 皮膚障害

 低体温療法の副作用で最も障害されやすい臓器は皮膚である。冷却する過程で末梢の血管収縮を起こし、それ故に動かない患者の皮膚を傷つけやすい。これらの患者は圧がかかる部位を持続的に変更できる特別なベッドを設置したり、さらには褥瘡や皮膚の障害を防ぐための頻回の体位変換が必要になる。もしもシバリングが重大で鎮静管理で効果的にコントロールすることができないときはその患者は神経筋遮断薬を使用したり、自動的に長期間のEEGモニターの装着が必要となるだろう33,34。モニターの電極それ自体が持続的に一ヶ所へ圧をかける原因となり、このこともまた同じく皮膚障害を引き起こす可能性がある。ECLS中の患者では、体位を変換することは挑戦的でリスクがあり困難なように思われ、そして特別なベッドを使用するのは普通にあることではないが、大きな体型の一定の患者では考慮すべきかもしれない。

9. シバリング

 シバリングは低体温療法で最も頻度が高く、普通に起こりうる副次的現象である。前述したように、血管収縮後の体の生理学的変化や体温を上げようとする試みは意味がなく、深部体温は35.5以下まで低下する44-47。色々な試みは試すべきであり、鎮静薬や筋弛緩薬を使用し、もし可能なら神経筋遮断薬の長期使用はさけることを目標にしてシバリングをコントロールする必要がある。次に挙げる薬がよく使用されるが、筋を弛緩させるマグネシウム硫酸塩の注射、短時間作用型のオピオイド、鎮痛のためのメペリジン、抗不安作用のベンゾジアゼピン、成人の鎮静としてのプロポフォール、シバリングをコントロールするための短時間作用型の神経筋遮断薬、などである33,34。動物実験で低体温療法中に、神経筋遮断薬を使用中きちんと鎮静をしなかった実験では低体温療法の有益性はなかったとしているが、一方で神経筋遮断薬を使用中きちんと鎮静した実験では、低体温療法の有益性の可能性があったことを覚えておかなければならない65,66。他の薬剤でシバリングを減らすために使用されているのは、クロニジンやデクスメデトミジンなどである。シバリングは代謝率を増やしICPを上昇させるため、この治療法を成功させるためにどのようにシバリングをコントロールするのかについての、明確な治療戦略が必要不可欠である。

 神経学的予後の改善については、外傷性脳損傷、目撃のある心肺停止、周産期の低酸素血症などの一定の集団においては、導入もしくは治療的低体温の使用は正当な理由となる。さらに小児の研究の結果でも、低体温療法の有益性がある患者群への追加となりそうである。ECLS患者、集中治療、その管理の全ての側面がケアに組み込まれる必要があり、そのためにも導入や治療的低体温に対して明確な理解が広く知られて、適応のある患者集団に利用されなければならない。

偶発性低体温とECLS

 偶発性低体温とECLS患者の復温に関しても、簡潔に話をしておく必要がある。早い時期から重度低体温や心停止に対して心肺補助バイパスを使用し成功したいくつかの症例報告があり、ECLSの使用が広く普及しECLSは蘇生の際に管理しやすく望まれる方法になっていた。ECLSの使用はジオグラフィック分野では、高い確率で偶発性低体温症が起こることから、ずっと探求され研究されてきた67-69。この場合の蘇生はECLSを用いての急速復温を迅速に実行することが原則である。患者の発見から最短で復温するには大腿動脈と大腿静脈からのカニュレーションが、最も後遺症を少なくし予後を改善させる。段階的、迅速に回路で熱交換器を用いて患者の体温を上げるよう調整しながら、心血管補助のためのVA-ECLSの開始が必要である。なぜならVA-ECLSを装着している患者は心機能や、ECLSを装着していなければ適切な循環を保てなくなるような心室性の不整脈(除細動 +/- 薬物治療 を要する)を完全にサポート出来るためである67-69

 偶発性低体温において良好な予後や生存率は、復温のために迅速に患者を救助し搬送してECLSを実施するということと関連している。さらに良い結果の得られた研究は、組織された救助チームを持ち、基礎疾患少ない若い患者で、先行した窒息がなく、28未満の重度低体温などが最小限であるセンターの結果であった68。症例報告からの重度低体温や長い心停止での生存例は、ECLS装着のないものはほとんどない70-72。早期のECLSの遂行と選ばれた集団で復温をすることは予後を改善させ、価値のある治療介入である。それ故にECLSを遂行するセンター、プロトコールの理解、いつ遂行すべきか、は重要である。



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by kaigaiwataihenda | 2015-10-31 10:03 | Acute Care Surgery
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